鹿児島弁(薩隅方言)はなぜ聞き取れない?音のしくみと歴史

鹿児島弁(薩隅方言)は、他の日本語方言と比べても音のしくみが大きく異なる方言です。何が特殊なのか、そしてその特殊さが歴史上どう使われたのかを、出典つきで紹介します。
鹿児島弁は、鹿児島県(奄美群島を除く)と宮崎県諸県地方で話される方言で、言語学では「薩隅方言(さつぐうほうげん)」と呼ばれます。九州の方言は大きく肥筑方言・豊日方言・薩隅方言の3つに分かれますが、薩隅方言はそのなかでも特殊化が進んだ方言とされています。
この記事では、薩隅方言の音のしくみに関する2つの特徴と、それが標準語や歴史上の出来事に与えた影響を紹介します。
全国的にも珍しい音とリズムのしくみ
薩隅方言には「モーラ」の概念がなく、音節の長さがそのままリズムを作る珍しい方言です。
モーラのない「音節方言」
標準語や多くの方言では「行って」を「イ・ッ・テ」という3拍(2音節・3モーラ)で発音しますが、薩隅方言では「イッ・テ」という2拍(2音節・2モーラ)にしかなりません。音節の種類にかかわらず同じ長さで発音され、拍(モーラ)という単位を別に立てる必要がないためで、日本語としては珍しい「音節方言」に分類されます。似た特徴を持つ方言は、東北方言の一部(津軽弁・秋田弁など)に限られます。
語末の促音化と同音異義語
薩隅方言では、語末のキ・ギ・ク・グ・チ・ジ・ツ・ビ・ブなどの音が、狭母音の脱落によって促音化し、内破音や声門破裂音になります。この結果、「靴」「首」「口」「釘」「櫯」「来る」といった、もとは違う音だった単語がすべて「クッ」という同じ発音になるなど、多数の同音異義語が生まれています。鹿児島市などでは動詞語尾の「る」も同様に促音化します。
標準語になった鹿児島弁と、機密を守った鹿児島弁
「おい」「こら」は標準語に溶け込んだ薩隅方言で、戦時中には暗号としても使われました。
標準語に溶け込んだ「おい」「こら」
明治期の日本の警察は薩摩藩出身者の力が強く、初代大警視(警視総監に相当)となった川路利良も鹿児島県出身でした。市民に呼びかける際に彼らが使った薩隅方言の「おい」や、「これは(あなた)」の意の「こら」が、やがて相手をとがめる際の言葉として標準語に定着したとされます。
暗号として使われた薩隅方言
1943年、ドイツから日本へ潜水艦U-511が譲渡された際、乱数表を使った暗号電報が戦況悪化で使いにくくなったため、東京の外務省本省とベルリンの日本大使館は、早口の薩隅方言で国際電話をやり取りしました。アメリカ海軍情報局はこの通話を傍受しましたが、どの国の言語かも判別できず、世界中の言語を調べた末、鹿児島県加治木町出身の日系二世・伊丹明によってようやく薩隅方言と特定され、解読までに録音から2か月を要しました。ドイツ側の諜報機関はこの暗号を最後まで解読できなかったとされます。
よくある質問
鹿児島弁は他の九州方言とどう違う?
九州の方言は肥筑方言・豊日方言・薩隅方言の3つに大別されますが、「よか」のようなカ語尾や「ばってん」といった九州方言らしい特徴は肥筑方言に多く見られます。薩隅方言はそれらとは別に、語末が子音(母音の脱落)で終わる語を発達させるなど、独自の特殊化を進めた方言です。
鹿児島弁の「二型アクセント」とは?
すべての語がA型・B型のどちらかに属し、音節数にかかわらずアクセントの型が2種類しかないという方式です。鹿児島市など県内の多くの地域ではA型は文節の最後から2番目の音節が高く、B型は最後の音節だけが高くなります。
「オゴジョ」も鹿児島弁の一つ?
はい。薩隅方言の語彙の一つで、「若い女性、お嬢さん」を意味します。「薩摩おごじょ」という言い方でも親しまれています。
「ビンタ」はもともとどんな意味?
薩隅方言では単に「頭(耳脇の髪の生えぎわあたり)」を指す言葉でした。かつて運動部などの鹿児島県出身の指導者が「指導」と称して行っていた平手打ちと結び付き、「平手打ち」そのものを指す言葉として広まったと言われています。