潮が向きを変える海峡 ― 関門の渡り方と、響灘の絶景

下関では、海の底を歩いて県境をまたげます。対岸の門司へは船で5分。そして海峡の水そのものが、1日に4回、向きを変えます。
関門海峡は、東の周防灘と西の響灘をつなぐ狭い水路です。人も車も列車も、そして海の水も、早鞆瀬戸を中心にここを行き来します。地元では「関門」と略して呼ばれることの多い海です。
海峡の底と上を渡る四つの道、決闘の島・巌流島、日本海側の角島や本州最西端、釜山へ向かう航路。どれも、潮と地形がこの町の暮らしをどう形づくってきたかにつながっています。
1日4回向きを変える潮 ― 早鞆瀬戸のしくみ
関門海峡の潮流は、満ち引きに合わせて約6時間ごと、1日に4回向きを変えます。満ち潮は西流れ、引き潮は東流れです。
早鞆瀬戸はやとものせと
満潮と干潮が1日に2回ずつあるので、東西の流れも2回ずつ入れ替わって計4回になります。満ち潮のときは西向き、引き潮のときは東向きです。東の周防灘は潮位差が約3.8m、西の響灘は約1.5mと開きが大きく、その水が狭い瀬戸を通ることで流れが速くなります。速さは鳴門海峡・来島海峡に次ぐ国内第3位とされ、3つを合わせて日本三大急潮と呼ぶのが一般的です。
潮流信号所
火ノ山下などに置かれた標識で、電光文字で流れの向きと速さ、これから強まるか弱まるかを船に知らせます。船は通航の目安にしていて、海上保安庁の関門海峡海上交通センターも同じ内容をウェブで公開しています。春には濃い霧で視界が悪くなり、通航が制限されることもあります。
与次兵衛ヶ瀬よじべえがせ
大瀬戸にあった暗礁で、干潮時に姿を現すことから「死の瀬」と恐れられ、1592年(文禄元)7月には豊臣秀吉の乗った船が座礁したとされます。そのときの船頭・明石与次兵衛は責任をとって切腹し、のちに細川忠興が篠瀬という岩礁に慰霊碑を建てたことから、この暗礁が与次兵衛ヶ瀬と呼ばれるようになったといいます。この暗礁は、大正元年(1912)から6年にかけて火薬で爆破されました。
出典:秀吉の遭難と与次兵衛岩(関門海峡に刻まれた歴史)与次兵衛ヶ瀬(事典項目)整備以前の関門海峡(関門海峡に刻まれた歴史)
海峡を渡る四つの道 ― 鉄道、国道、橋、新幹線、そして歩く人道
海峡を渡る道は開通順に、鉄道トンネル(1942年)、国道トンネル(1958年)、関門橋(1973年)、新幹線トンネル(1975年)です。歩いて渡れるのは国道トンネルの人道だけです。
海峡を渡る四つの交通路
鉄道トンネルが1942年、国道トンネルが1958年、関門橋が1973年、新幹線の新関門トンネルが1975年に完成しました。在来線(山陽本線)の鉄道トンネルは1942年に下り線、1944年に上り線が開通しており、「1944年」と書かれていることがあるのは、上り線の開通年です。この鉄道トンネルだけは、ほかの3つが通る早鞆瀬戸ではなく、彦島と九州側の間の大瀬戸の下を通るとされます。
関門トンネル人道かんもんとんねるじんどう
関門国道トンネルは上が車道、下が人道の二層構造で、歩行者は無料です。国道トンネル全体は取付部を含めて3,461mあり、うち海底部は約780mです。人道は全長約780m、歩いて約15分ほどです。入口ではエレベーターに乗り、下関側は地下約55m、門司側は約60mまで降ります。トンネルの中ほどには山口県と福岡県の県境があり、歩きながらまたげます。下関側の関門プラザには、建設時の写真や模型が展示されています。
関門橋かんもんきょう
橋長1,068m、中央の支間は712m。橋桁は海面から61mの高さにあり、大型船がその下をくぐる吊り橋で、自動車専用です。グレーがかった緑色に塗られているのは、60m以上の構造物は赤か赤白にするという航空法の規定に対し、航空障害灯を付けることを条件に認められたためで、この事例をきっかけに規定が見直されたと伝えられます。
巌流島と、海峡に浮かぶ島々
巌流島は開削と埋め立てで決闘の頃の数倍に広がり、彦島は小瀬戸の埋め立てで本州に近づきました。満珠・干珠は伝説の島です。
巌流島がんりゅうじま
宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘したと伝わる島で、決闘は慶長17年(1612)とされます。古くは船島(ふなしま)と呼ばれていました。明治34年(1901)からの開削と埋め立てで、面積は決闘の頃の数倍に広がり、周囲約1.6kmの小島になっています。明治19年(1886)にはコレラの流行に伴って病院が置かれたこともあります。唐戸桟橋から船で約10分です。
出典:巌流島
小倉碑文
承応3年(1654)建立の武蔵の顕彰碑「小倉碑文」は、対戦相手を「岩流」とだけ記し、「小次郎」の名は出てきません。武蔵の著書『五輪書』にも決闘の記述はなく、山口県観光連盟は「一体どこまでが事実なのか本当のところは分かっていません」と紹介しています。有名な決闘の姿は、後の時代に語り継がれるなかで形づくられたものです。
出典:巌流島
満珠・干珠まんじゅ・かんじゅ
神功皇后が住吉大神から授かった潮の満ち引きを操る珠を海に返すと、二つの島になったという伝説があります。県の文化財解説によれば、島の名は古く『日本書紀』にも見られるといいます。島は忌宮神社の飛び地境内で、樹林は大正15年(1926)に国の天然記念物に指定されました。
彦島ひこしま
かつて彦島と本州の間には「小瀬戸」という狭い水路があり、1942年に東側が埋め立てられて下関漁港の入口になりました。彦島は今、3本の橋で結ばれています。彦島と本土を隔てる水路には、パナマ運河と同じ仕組みの下関漁港閘門があり、規模は世界最小といわれます。
響灘の絶景 ― 角島大橋、灯台、本州最西端
日本海側の響灘には、通行無料の角島大橋、国の重要文化財の灯台、本州最西端の毘沙ノ鼻があります。
角島大橋つのしまおおはし
2000年(平成12)11月に完成した長さ1,780mの橋で、山口県内で最長です。完成当時は一般道路の離島架橋として国内最長でした。橋ができる前の町営渡船は1日7便でしたが、冬の日本海の風浪で欠航が多く、医療・教育・消防などの暮らしに支障が出ていたため、島民が「夢の架け橋」の早期実現を望みました。事業費は約132億円です。
六連島灯台と角島灯台
六連島灯台は明治4年(1871)に初点灯した石造の灯台で、高さは約10m。兵庫開港に伴う灯台整備で建てられたうちの一つとされます。2020年12月23日に、角島灯台とともに国の重要文化財に指定されました。
毘沙ノ鼻びしゃのはな
下関市が本州最西端の地として案内する岬で、日本海に面した展望広場は海抜約120mにあります。本州でいちばん遅い夕暮れが見られるとされ、JR吉見駅から車で約25分です。関門海峡側の壇之浦や火の山は本州の西端付近ですが、最西端そのものではありません。
蓋井島の山ノ神神事ふたおいじまのやまのかみしんじ
数え年で7年目ごと(実際には6年間隔)、旧暦11月15日前後の4日間にわたり、島の4つの森(一の山〜四の山)で行われる神事です。当元と呼ばれる4家と太夫が、月と日を象った餅などを供えます。寛政8年(1796)からの記録があり、国の選択無形民俗文化財です。
海の向こうとつながる港 ― 関釜航路、火の山、海響館
下関港は1905年の関釜連絡船から釜山と結ばれ、1970年には日本初の国際定期フェリー航路が開かれました。
関釜フェリーかんぷふぇりー
前身の関釜連絡船は1905年(明治38)9月11日に開設され、民間企業の山陽汽船が運航を始めて、のち国営になりました。1945年まで約40年、ほぼ毎日運航し、釜山経由で満洲やヨーロッパへの物流路になった一方、多くの韓国人が日本へ連行された経路でもあったと、市国際課の職員が『朝鮮通信使』誌への寄稿で述べています。戦後の1970年に開設された関釜フェリーは、下関港本港地区と釜山港を毎日結んでいます。
火の山
標高268.2mの山頂付近が公園になっていて、関門海峡と関門橋を一望できます。古くは山頂に狼煙台が置かれたことが、「火の山」の名の由来といわれます。公園は瀬戸内海国立公園に含まれ、眺望は「日本夜景遺産」にも認定されています。2026年4月には山頂に展望デッキ「ヒノヤマリング」が開業しました(本稿は2026年10月時点の情報です)。再整備の途中で、施設によっては利用が制限されることがあります。
よくある質問
関門トンネルの人道は、何時まで歩けますか。自転車は?
通行できる時間は6:00〜22:00です。自転車と原付は乗ったまま通れず、押して歩き、20円の料金がかかると案内されています(料金は改定されることがあります)。
関門海峡の潮は、どれくらい速いのですか。
最大で10ノット前後、時速にして18kmほどとする説明が一般的で、8ノットとする事典もあります。場所や時期、測り方で数字は動くため、速さの順位も「国内第3位とされる」と、幅をもたせて受け止めてください。
巌流島にはどうやって行けますか。
唐戸桟橋から船で約10分です。運航日や時刻は変わることがあるので、乗る前に運航会社の案内で確認してください。
角島大橋は「日本一長い橋」ですか。
全国一とは言い切れません。通行料のかからない離島架橋としては日本屈指の長さ、というのが下関市の観光ガイドの表現で、橋を管理するのは山口県の下関土木建築事務所です。
出典・参考
- 関門海峡について
- 関門海峡(事典項目)
- 航路標識の話 潮流信号所
- 関門海峡の潮流情報
- 秀吉の遭難と与次兵衛岩(関門海峡に刻まれた歴史)
- 与次兵衛ヶ瀬(事典項目)
- 整備以前の関門海峡(関門海峡に刻まれた歴史)
- 選奨土木遺産 関門鉄道トンネル
- 関門トンネル人道
- 関門海峡Navi アクセス
- 関門国道トンネル
- 土木遺産in九州 関門橋
- 関門橋(高速道路)(下関観光ガイドブック)
- 関門橋
- 関門連絡船の情報
- 関門海峡花火大会 下関・門司完全ガイド
- 巌流島
- 山口県の文化財 満珠・干珠
- 忌宮神社 境内案内
- 彦島の橋
- 世界最小のパナマ式運河(下関観光ガイドブック)
- 角島大橋に関する県資料
- 角島大橋(インフラツーリズム)
- 角島大橋(下関観光ガイドブック)
- 六連島灯台
- 角島灯台
- 本州四端 西端 毘沙ノ鼻
- 下関観光ガイドブック 北部エリア
- 山口県の文化財 蓋井島の山ノ神神事
- 文化遺産オンライン 蓋井島の山ノ神神事
- 関釜連絡船100周年の意義(『朝鮮通信使』2006年2月号掲載記事)
- 市政の概要(略年表)
- 関釜フェリー
- 火の山地区観光施設再編整備基本構想【概要版】
- 火の山公園(下関観光ガイドブック)
- 火の山公園
- 海響館