山口県の難読地名を読み解く ── 緑町・南風泊・杢路子に見る読みの型

公開日:2026-09-29 / 最終更新:2026-09-29

山口県の難読地名を描いた架空のドット絵風景

「緑町」と書いて、山口市では「みどりちょう」、周南市と防府市では「みどりまち」と読む。山口県の地名は、漢字を一字ずつ足し算しても、隣の町の読みを当てはめても、たびたび外れる。

山口県は周防と長門の二つの旧国からなり、下関・宇部の西部、萩・長門・阿武の北部、山口・防府の中部、周南・岩国・柳井・周防大島の東部と、日本海と瀬戸内海に沿って地名の顔つきが少しずつ違う。それでも読みが崩れる仕組みは、地域をまたいで何度も顔を出す。

ここでは日本郵便の町域データ、JR西日本の駅情報、萩市の行政区一覧、山口県の離島紹介など、公的な資料に載る読みを基準にして、濁りの位置、音の詰まり、訓の特殊さ、同じ表記の読み分け、字面との食い違いという五つの型に分け、実例を並べる。名前の由来は、出典で確かめられるものにだけ触れる。

濁るかどうかは地名ごとに決まる ── 連濁の気まぐれ

下関の才川は「さいがわ」と濁るのに筋川町は「すじかわちょう」、周南の飯島町は「いいじま」で竹島町は「たけしま」。濁り方は地名ごとに独立している。

才川さいがわ

下関市(西部)

下関市の才川は、「川」が濁って「さいがわ」。同じ市内の筋川町は「すじかわちょう」と清音のままで、「川」の字に濁るかどうかの決まりはない。後ろの語の頭が濁る現象を連濁と呼ぶが、起こる条件は一律ではなく、字面を見ただけでは決められない。

出典:郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)連濁(デジタル大辞泉・世界大百科事典)

飯島町・竹島町いいじまちょう・たけしまちょう

周南市(東部)

周南市の飯島町は「島」が濁って「いいじま」、竹島町は濁らずに「たけしま」。同じ市の同じ字でも、濁る町と濁らない町がある。「島」は濁るものと決め込むと、竹島町で外れる。

出典:郵便番号検索 山口県 周南市(町域名と読み仮名)連濁(デジタル大辞泉・世界大百科事典)

岡田町・長田町おかだちょう・ながたちょう

周南市(東部)

周南市の岡田町は「田」が「だ」と濁るが、長田町は「ながた」と濁らない。「田」はいつも濁ると思い込んでいると、並んだ二つの町名のうち片方で読みを外す。

出典:郵便番号検索 山口県 周南市(町域名と読み仮名)

高泊たかどまり/たかとまり

山陽小野田市(西部)

同じ市の「高泊」を名乗る町域でも、西高泊は「にしたかどまり」と「泊」が濁り、南高泊は「みなみたかとまり」と濁らない。名前の大半を共有していても、濁るかどうかは町域ごとに決まっている。

出典:郵便番号検索 山口県 山陽小野田市(町域名と読み仮名)

縮む・詰まる ── 字数より音が少ない読み

厚保は「あつ」、蒲生野は「かもの」、嘉年は「かね」。音が抜け、促音が入り、字数どおりに読むと届かない。

厚保あつ

美祢市(西部)

「厚」に「あつ」をあてたところで読みは終わり、「保」は音に現れない。字数どおりに「あつほ」と読むと、一音余ってしまう。

出典:郵便番号検索 山口県 美祢市(町域名と読み仮名)

蒲生野かもの

下関市(西部)

「蒲生」は「がもう」と読む例がよく知られているので、「がもうの」と四音で読みたくなる。下関のこの町域は三音の「かもの」に縮み、濁りも消える。

出典:郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)

嘉年かね

山口市阿東(中部)

二字を音読みすれば「かねん」だが、実際は二音の「かね」。末尾の「ん」が消えるので、字数よりも音が少ない。音読みの漢字を素直に並べる読み方は、この地名では通用しない。

出典:郵便番号検索 山口県 山口市(町域名と読み仮名)

中六波町なかろっぱちょう

下関市長府(西部)

「六波」を「ろくは」と読むと届かず、促音と半濁音を伴う「ろっぱ」になる。「ろく」の「く」が詰まり、「は」が「ぱ」へ変わる二段の変化が、長府の町名の中で読みを難しくしている。

出典:郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)

錦見にしみ

岩国市(東部)

「錦」は「にしき」と読む字だが、この地名では「き」が落ちて「にしみ」。音読みの「きんけん」でも、訓読みそのままの「にしきみ」でもない。字を見て確信できる読みほど、一音の欠落を見逃しやすい。

出典:郵便番号検索 山口県 岩国市(町域名と読み仮名)

一字ずつでは組み立てられない ── 熟字訓と訓の特殊さ

富海は「とのみ」、南風泊は「はえどまり」、杢路子は「むくろうじ」。字を一つずつ読んでも届かず、丸ごと覚えるしかない。

富海とのみ

防府市(中部)

防府市の富海は読みが「とのみ」で、JR山陽本線の駅名にもなっている。「とみうみ」と二字を訓で足しても、「ふかい」と音で読んでも届かない。日常語ではまず出会わない音の並びで、知っているかどうかで決まる。

出典:郵便番号検索 山口県 防府市(町域名と読み仮名)富海 駅情報(JRおでかけネット)

南風泊はえどまり

下関市彦島(西部)

「南風」を「はえ」と読み、「泊」は濁って「どまり」になる。彦島の南風泊市場の名として知られ、日本で唯一のふぐ専門の卸売市場。字面から「なんぷう」や「みなみかぜ」を思い浮かべた人には、まず当たらない。

出典:南風泊市場(彦島散策へGo!)下関とふぐ(下関ふく連盟)

六連島むつれじま

下関市(西部)

「六連」を「ろくれん」と音で読みたくなるが、島名では「むつれ」と読む。「むれじま」と縮めても届かない。名の由来には複数の説があり、読みのほうは公的な資料で確かめられる。

出典:郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)離島・六連島(山口県の離島の紹介)

杢路子むくろうじ

下関市豊田町(西部)

「杢」を「もく」、「路」を「ろ」、「子」を「し」と読み進めると「もくろし」になり、実際の「むくろうじ」とはほど遠い。一字ずつ音訓をあてる方法が通用せず、全体を一つの読みとして覚えるしかない名前。

出典:郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)

田耕たすき

下関市豊北町(西部)

字を一つずつ読んでも「たすき」にはならない。二字をまるごと一つの読みとして覚えるしかない名前。

出典:郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)

同じ表記なのに読みが違う ── 市や町をまたぐと変わる

緑町は山口市で「みどりちょう」、周南市と防府市で「みどりまち」。黄金町や平和町も、同じ表記のまま市や地区ごとに結びの読みが変わる。

緑町みどりちょう/みどりまち

山口市/周南市・防府市

山口市の緑町は「みどりちょう」、周南市と防府市の緑町は「みどりまち」。下関市彦島の緑町は「ひこしまみどりちょう」と、また「ちょう」に戻る。町名の結びを「ちょう」と「まち」のどちらで読むかは、同じ表記でも市ごとに登録されていて、字面にも語感にも手がかりがない。

出典:郵便番号検索 山口県 山口市(町域名と読み仮名)郵便番号検索 山口県 周南市(町域名と読み仮名)郵便番号検索 山口県 防府市(町域名と読み仮名)郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)

黄金町こがねちょう/こがねまち

山口市

山口市の中心部にある黄金町は「こがねちょう」だが、同じ山口市でも小郡地区の黄金町は「こがねまち」と結ぶ。一つの市の中に同じ名前が二つあり、旧市街と小郡地区とで結びの読みが分かれている。

出典:郵便番号検索 山口県 山口市(町域名と読み仮名)

平和町へいわまち/へいわちょう

防府市/山陽小野田市

防府市の平和町は「へいわまち」、山陽小野田市の平和町は「へいわちょう」。「平和」を音で読むところまでは同じなのに、結びだけが逆になる。隣り合う市の同じ町名でも、読みは持ち込めない。

出典:郵便番号検索 山口県 防府市(町域名と読み仮名)郵便番号検索 山口県 山陽小野田市(町域名と読み仮名)

字面の連想を裏切る ── 意味と音訓のすれ違い

勝谷は「しょうや」、稲光は「いなみつ」、夜市と八道はどちらも「やじ」。意味の連想や音訓の統一に頼ると外れる。

三徳みのり

萩市(北部)

萩市が公表する行政区名で、読みは「みのり」。字面からは「さんとく」としか組み立てられないが、日常語の「みのり」と同じ音になる。意味の連想でも音の足し算でも届かない。

出典:萩市の行政区(ふりがな付き一覧)

勝谷しょうや

下関市(西部)

「勝」は音の「しょう」、「谷」は「たに」ではなく「や」。訓で通せば「かつたに」、音で通せば「しょうこく」になるはずが、音と訓が半分ずつ混ざる。どちらか一方で統一しようとすると読み違える。

出典:郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)

小古祖おごそ

山口市徳地(中部)

山口市徳地の町域名で、読みは「おごそ」。「しょうこそ」と音で読んでも、「こふるそ」と訓で読んでも届かない。字に一つずつ読みをあてはめる方法が通用しない名の一つ。

出典:郵便番号検索 山口県 山口市(町域名と読み仮名)

夜市・八道やじ

周南市/下関市豊田町

周南市の夜市と下関市豊田町の八道は、表記がまったく違うのに、どちらも「やじ」と読む。「よいち」とも「はちどう」とも読めない二つの名が、同じ二音に落ち着いている。

出典:郵便番号検索 山口県 周南市(町域名と読み仮名)郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)

稲光・手洗いなみつ・たらい

下関市豊田町(西部)

下関市豊田町の稲光は、空の稲妻を指す「いなびかり」ではなく「いなみつ」。同じ豊田町の手洗も「てあらい」ではなく「たらい」と読む。日常語の連想が、そのまま読み違いの入り口になる。

出典:郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)

椿東ちんとう

萩市(北部)

萩市は市の花の一つにツバキを選んでいるが、町域の椿東は「つばきひがし」ではなく音読みの「ちんとう」。市内の町域「椿」は「つばき」と読むので、同じ字が一つの市の中で訓と音に分かれる。

出典:郵便番号検索 山口県 萩市(町域名と読み仮名)萩市の概要(市章・市民憲章等)

象鼻ヶ岬ぞうびがさき

光市室積(東部)

室積半島の東端から北へ伸びる砂嘴で、象の鼻のような形と説明される岬。「ぞうはな」と読みたくなるが、音の「び」を使い、「ヶ」は「が」と読ませる。名の由来として語られるのは形にちなむ説明で、読みは音と訓を一つずつ混ぜて組み立てる。

出典:象鼻ヶ岬・峨嵋山(むろづみ空想計画舎)象鼻ケ岬(おいでませ山口へ)

角島つのしま

下関市豊北町(西部)

本土と橋でつながる島の名。「角」は「かく」「かど」「すみ」と読む人が多いが、島名では動物の「つの」を使い、島名の「しま」も濁らない。同じ下関市でも、彦島の角倉町では同じ字を「すま」と読み、「すまくらちょう」になる。島に架かる橋の名から入った人でも、島名の読みは別に確かめておきたい。

出典:郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)

阿武あぶ

阿武町(北部)

町名の「阿武町」は「あぶちょう」。「あむ」と読みたくなる字面だが、日本郵便の自治体名は郡も含めて「あぶぐんあぶちょう」。古代の郡名を「あむ」と記す事典もあるので、古い読みと今の公式の読みは分けて覚える。

出典:郵便番号検索 山口県 阿武町(町域名と読み仮名)長門国(日本歴史地名大系・世界大百科事典・山川日本史小辞典)

よくある質問

山口県で特に読みにくい地名はどこですか。

駅名では下関市豊北町の特牛。町域名や行政区名では、山口市の鋳銭司、長門市油谷の向津具、萩市旭地域の釿切など、音読みにも訓読みにも寄せきれない読みを持つ名が目立つ。

同じ表記なのに読みが違う地名は、どう見分ければいいのですか。

表記が同じでも、山口市の緑町(みどりちょう)と周南市の緑町(みどりまち)のように、市や旧町村ごとに別の地名として別々の読みで登録されている。市町名を先に確かめてから読みを当てるのが確実。

山口県の島名や「島」の付く地名は、「じま」と「しま」のどちらが多いのですか。

数え上げての比較ではなく、地名ごとに決まっているというのが実情。下関市の六連島は「むつれじま」と濁るが、周南市の竹島町は「たけしま」と濁らず、同じ「島」でも揃わない。濁るかどうかは一つずつ確かめるしかない。

山口市の中でも読みにくい地名が多いのはなぜですか。

阿知須・秋穂・小郡・徳地は2005年に、阿東は2010年に山口市へ合併した旧町村で、旧町村ごとに受け継がれた読みが地名に残っている。そのため一つの市の中に、秋穂(あいお)、吉敷(よしき)、仁保(にほ)、阿知須(あじす)のように、字面との距離がそれぞれ違う読みが同居する。

難読地名を読めるようになるコツはありますか。

まず字面から、濁るか、縮むか、訓が混ざるかを疑ってみる。そのうえで、同じ表記が他の市町にもないか、意味の連想に引かれていないかを確かめると、緑町や平和町のような読み分けにも備えられる。川棚温泉(かわたなおんせん)のように、駅名で先に覚えるのも手。

出典・参考

※ 由来に諸説あるものは「諸説あり」として記載しています。読み・由来は公開情報にもとづきますが、最新の情報は各出典でご確認ください。

執筆: LoreMania編集部/出典検証: 各項目に明記 / 編集・出典ポリシー

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