山口県の難読地名を読み解く ── 緑町・南風泊・杢路子に見る読みの型

「緑町」と書いて、山口市では「みどりちょう」、周南市と防府市では「みどりまち」と読む。山口県の地名は、漢字を一字ずつ足し算しても、隣の町の読みを当てはめても、たびたび外れる。
山口県は周防と長門の二つの旧国からなり、下関・宇部の西部、萩・長門・阿武の北部、山口・防府の中部、周南・岩国・柳井・周防大島の東部と、日本海と瀬戸内海に沿って地名の顔つきが少しずつ違う。それでも読みが崩れる仕組みは、地域をまたいで何度も顔を出す。
ここでは日本郵便の町域データ、JR西日本の駅情報、萩市の行政区一覧、山口県の離島紹介など、公的な資料に載る読みを基準にして、濁りの位置、音の詰まり、訓の特殊さ、同じ表記の読み分け、字面との食い違いという五つの型に分け、実例を並べる。名前の由来は、出典で確かめられるものにだけ触れる。
濁るかどうかは地名ごとに決まる ── 連濁の気まぐれ
下関の才川は「さいがわ」と濁るのに筋川町は「すじかわちょう」、周南の飯島町は「いいじま」で竹島町は「たけしま」。濁り方は地名ごとに独立している。
才川さいがわ
下関市の才川は、「川」が濁って「さいがわ」。同じ市内の筋川町は「すじかわちょう」と清音のままで、「川」の字に濁るかどうかの決まりはない。後ろの語の頭が濁る現象を連濁と呼ぶが、起こる条件は一律ではなく、字面を見ただけでは決められない。
飯島町・竹島町いいじまちょう・たけしまちょう
周南市の飯島町は「島」が濁って「いいじま」、竹島町は濁らずに「たけしま」。同じ市の同じ字でも、濁る町と濁らない町がある。「島」は濁るものと決め込むと、竹島町で外れる。
岡田町・長田町おかだちょう・ながたちょう
周南市の岡田町は「田」が「だ」と濁るが、長田町は「ながた」と濁らない。「田」はいつも濁ると思い込んでいると、並んだ二つの町名のうち片方で読みを外す。
高泊たかどまり/たかとまり
同じ市の「高泊」を名乗る町域でも、西高泊は「にしたかどまり」と「泊」が濁り、南高泊は「みなみたかとまり」と濁らない。名前の大半を共有していても、濁るかどうかは町域ごとに決まっている。
縮む・詰まる ── 字数より音が少ない読み
厚保は「あつ」、蒲生野は「かもの」、嘉年は「かね」。音が抜け、促音が入り、字数どおりに読むと届かない。
蒲生野かもの
「蒲生」は「がもう」と読む例がよく知られているので、「がもうの」と四音で読みたくなる。下関のこの町域は三音の「かもの」に縮み、濁りも消える。
嘉年かね
二字を音読みすれば「かねん」だが、実際は二音の「かね」。末尾の「ん」が消えるので、字数よりも音が少ない。音読みの漢字を素直に並べる読み方は、この地名では通用しない。
中六波町なかろっぱちょう
「六波」を「ろくは」と読むと届かず、促音と半濁音を伴う「ろっぱ」になる。「ろく」の「く」が詰まり、「は」が「ぱ」へ変わる二段の変化が、長府の町名の中で読みを難しくしている。
錦見にしみ
「錦」は「にしき」と読む字だが、この地名では「き」が落ちて「にしみ」。音読みの「きんけん」でも、訓読みそのままの「にしきみ」でもない。字を見て確信できる読みほど、一音の欠落を見逃しやすい。
一字ずつでは組み立てられない ── 熟字訓と訓の特殊さ
富海は「とのみ」、南風泊は「はえどまり」、杢路子は「むくろうじ」。字を一つずつ読んでも届かず、丸ごと覚えるしかない。
富海とのみ
防府市の富海は読みが「とのみ」で、JR山陽本線の駅名にもなっている。「とみうみ」と二字を訓で足しても、「ふかい」と音で読んでも届かない。日常語ではまず出会わない音の並びで、知っているかどうかで決まる。
南風泊はえどまり
「南風」を「はえ」と読み、「泊」は濁って「どまり」になる。彦島の南風泊市場の名として知られ、日本で唯一のふぐ専門の卸売市場。字面から「なんぷう」や「みなみかぜ」を思い浮かべた人には、まず当たらない。
六連島むつれじま
「六連」を「ろくれん」と音で読みたくなるが、島名では「むつれ」と読む。「むれじま」と縮めても届かない。名の由来には複数の説があり、読みのほうは公的な資料で確かめられる。
杢路子むくろうじ
「杢」を「もく」、「路」を「ろ」、「子」を「し」と読み進めると「もくろし」になり、実際の「むくろうじ」とはほど遠い。一字ずつ音訓をあてる方法が通用せず、全体を一つの読みとして覚えるしかない名前。
同じ表記なのに読みが違う ── 市や町をまたぐと変わる
緑町は山口市で「みどりちょう」、周南市と防府市で「みどりまち」。黄金町や平和町も、同じ表記のまま市や地区ごとに結びの読みが変わる。
緑町みどりちょう/みどりまち
山口市の緑町は「みどりちょう」、周南市と防府市の緑町は「みどりまち」。下関市彦島の緑町は「ひこしまみどりちょう」と、また「ちょう」に戻る。町名の結びを「ちょう」と「まち」のどちらで読むかは、同じ表記でも市ごとに登録されていて、字面にも語感にも手がかりがない。
出典:郵便番号検索 山口県 山口市(町域名と読み仮名)郵便番号検索 山口県 周南市(町域名と読み仮名)郵便番号検索 山口県 防府市(町域名と読み仮名)郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)
黄金町こがねちょう/こがねまち
山口市の中心部にある黄金町は「こがねちょう」だが、同じ山口市でも小郡地区の黄金町は「こがねまち」と結ぶ。一つの市の中に同じ名前が二つあり、旧市街と小郡地区とで結びの読みが分かれている。
平和町へいわまち/へいわちょう
防府市の平和町は「へいわまち」、山陽小野田市の平和町は「へいわちょう」。「平和」を音で読むところまでは同じなのに、結びだけが逆になる。隣り合う市の同じ町名でも、読みは持ち込めない。
字面の連想を裏切る ── 意味と音訓のすれ違い
勝谷は「しょうや」、稲光は「いなみつ」、夜市と八道はどちらも「やじ」。意味の連想や音訓の統一に頼ると外れる。
三徳みのり
萩市が公表する行政区名で、読みは「みのり」。字面からは「さんとく」としか組み立てられないが、日常語の「みのり」と同じ音になる。意味の連想でも音の足し算でも届かない。
勝谷しょうや
「勝」は音の「しょう」、「谷」は「たに」ではなく「や」。訓で通せば「かつたに」、音で通せば「しょうこく」になるはずが、音と訓が半分ずつ混ざる。どちらか一方で統一しようとすると読み違える。
小古祖おごそ
山口市徳地の町域名で、読みは「おごそ」。「しょうこそ」と音で読んでも、「こふるそ」と訓で読んでも届かない。字に一つずつ読みをあてはめる方法が通用しない名の一つ。
夜市・八道やじ
周南市の夜市と下関市豊田町の八道は、表記がまったく違うのに、どちらも「やじ」と読む。「よいち」とも「はちどう」とも読めない二つの名が、同じ二音に落ち着いている。
稲光・手洗いなみつ・たらい
下関市豊田町の稲光は、空の稲妻を指す「いなびかり」ではなく「いなみつ」。同じ豊田町の手洗も「てあらい」ではなく「たらい」と読む。日常語の連想が、そのまま読み違いの入り口になる。
椿東ちんとう
萩市は市の花の一つにツバキを選んでいるが、町域の椿東は「つばきひがし」ではなく音読みの「ちんとう」。市内の町域「椿」は「つばき」と読むので、同じ字が一つの市の中で訓と音に分かれる。
象鼻ヶ岬ぞうびがさき
室積半島の東端から北へ伸びる砂嘴で、象の鼻のような形と説明される岬。「ぞうはな」と読みたくなるが、音の「び」を使い、「ヶ」は「が」と読ませる。名の由来として語られるのは形にちなむ説明で、読みは音と訓を一つずつ混ぜて組み立てる。
角島つのしま
本土と橋でつながる島の名。「角」は「かく」「かど」「すみ」と読む人が多いが、島名では動物の「つの」を使い、島名の「しま」も濁らない。同じ下関市でも、彦島の角倉町では同じ字を「すま」と読み、「すまくらちょう」になる。島に架かる橋の名から入った人でも、島名の読みは別に確かめておきたい。
阿武あぶ
町名の「阿武町」は「あぶちょう」。「あむ」と読みたくなる字面だが、日本郵便の自治体名は郡も含めて「あぶぐんあぶちょう」。古代の郡名を「あむ」と記す事典もあるので、古い読みと今の公式の読みは分けて覚える。
よくある質問
山口県で特に読みにくい地名はどこですか。
駅名では下関市豊北町の特牛。町域名や行政区名では、山口市の鋳銭司、長門市油谷の向津具、萩市旭地域の釿切など、音読みにも訓読みにも寄せきれない読みを持つ名が目立つ。
同じ表記なのに読みが違う地名は、どう見分ければいいのですか。
表記が同じでも、山口市の緑町(みどりちょう)と周南市の緑町(みどりまち)のように、市や旧町村ごとに別の地名として別々の読みで登録されている。市町名を先に確かめてから読みを当てるのが確実。
山口県の島名や「島」の付く地名は、「じま」と「しま」のどちらが多いのですか。
数え上げての比較ではなく、地名ごとに決まっているというのが実情。下関市の六連島は「むつれじま」と濁るが、周南市の竹島町は「たけしま」と濁らず、同じ「島」でも揃わない。濁るかどうかは一つずつ確かめるしかない。
山口市の中でも読みにくい地名が多いのはなぜですか。
阿知須・秋穂・小郡・徳地は2005年に、阿東は2010年に山口市へ合併した旧町村で、旧町村ごとに受け継がれた読みが地名に残っている。そのため一つの市の中に、秋穂(あいお)、吉敷(よしき)、仁保(にほ)、阿知須(あじす)のように、字面との距離がそれぞれ違う読みが同居する。
難読地名を読めるようになるコツはありますか。
まず字面から、濁るか、縮むか、訓が混ざるかを疑ってみる。そのうえで、同じ表記が他の市町にもないか、意味の連想に引かれていないかを確かめると、緑町や平和町のような読み分けにも備えられる。川棚温泉(かわたなおんせん)のように、駅名で先に覚えるのも手。
出典・参考
- 郵便番号検索 山口県 下関市(町域名と読み仮名)
- 連濁(デジタル大辞泉・世界大百科事典)
- 郵便番号検索 山口県 周南市(町域名と読み仮名)
- 郵便番号検索 山口県 山陽小野田市(町域名と読み仮名)
- 郵便番号検索 山口県 美祢市(町域名と読み仮名)
- 郵便番号検索 山口県 山口市(町域名と読み仮名)
- 郵便番号検索 山口県 岩国市(町域名と読み仮名)
- 郵便番号検索 山口県 防府市(町域名と読み仮名)
- 富海 駅情報(JRおでかけネット)
- 南風泊市場(彦島散策へGo!)
- 下関とふぐ(下関ふく連盟)
- 離島・六連島(山口県の離島の紹介)
- 萩市の行政区(ふりがな付き一覧)
- 郵便番号検索 山口県 萩市(町域名と読み仮名)
- 萩市の概要(市章・市民憲章等)
- 象鼻ヶ岬・峨嵋山(むろづみ空想計画舎)
- 象鼻ケ岬(おいでませ山口へ)
- 郵便番号検索 山口県 阿武町(町域名と読み仮名)
- 長門国(日本歴史地名大系・世界大百科事典・山川日本史小辞典)